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「まだ手術は避けたい」と迷っている方へ
保存療法を1年以上続けてきたけれど、買い物や外出がつらい——そんな時期に人工関節の手術を提案されると、すぐには決めきれないものです。この記事では、待つ間に身体へ起こりうる変化と、保存療法から治療方針を見直す3つの目安を整理しました。次の診察で主治医へご相談いただく材料としてお使いください。
この記事の要点まとめ
- 保存療法を続ける間、筋力低下やかばう動作が関節や腰へ影響することがあります
- 痛み止めの効果低下・夜間痛・歩行距離の短縮は治療方針を見直す目安になります
- 症状の変化をメモし、画像所見とともに主治医へ具体的に相談する方法を紹介します
人工関節手術を先延ばしにするリスクと関節・身体への影響

変形性膝関節症や変形性股関節症では、手術の時期を患者様ご自身の生活状況に合わせて検討していくのが一般的です。とはいえ、待つ期間をどう過ごすかによって、身体の状態は少しずつ変わっていくと考えられています2。
痛みの我慢による筋力低下と関節変形の進行
痛む脚をかばえば、歩く量も立ち上がる回数も自然と減っていきます。太ももの前側(大腿四頭筋)やお尻の筋肉は使わない期間が続くと働きを保ちにくくなり、関節を支える力が弱まりやすいとされています。支える力が落ちると関節にかかる負荷の偏りが強まり、軟骨や骨の変化が進みやすい状況につながるという指摘もあります。痛みを我慢して動かない期間そのものが、関節を取り巻く環境に影響しうるという視点が大切です。
かばう動作による逆側の関節や腰への負担増大
片側の膝が痛むと、無意識のうちに反対の脚へ体重を寄せる歩き方が身についていきます。この癖が長引くと、反対側の膝や股関節、そして腰にも負担が集まりやすくなります。数年単位で見れば「痛む場所が増えた」とご相談に来られる方も珍しくありません。歩き方の癖はご自身では気づきにくいため、リハビリテーションの場で理学療法士が客観的な視点で確認する意義があります。
活動量の減少に伴う日常生活の支障と術後の身体機能への影響
外出の頻度が下がると、買い物や趣味、お孫様の送迎といった生活の選択肢が少しずつ狭まりがちです。行動範囲の縮小は体力全般の低下にもつながり、手術を選んだ場合の術後リハビリテーションで求められる筋力や持久力の土台にも関わってくると考えられます1。待つ間に体力をどう保つかが、その後の選択肢の広さに関わってきます。
保存療法から人工関節手術へ切り替える3つの判断目安
保存療法には、運動療法、消炎鎮痛剤や外用薬による薬物療法、体重管理、低周波治療器や超音波治療器などの物理療法があります。当院ではウォーターベッドや牽引器、集束型衝撃波も組み合わせながら、まず手術以外の方法で日常生活の負担を軽くする道筋を探ります。そのうえで、次の3つは治療方針を話し合うきっかけになりやすい目安です2。
指標1:お薬や物理療法を行っても痛みが十分に抑えられなくなったとき
以前は鎮痛剤を飲めば買い物へ行けたのに、今は服薬しても動き出しがつらい。リハビリの日は楽でも、翌日には元に戻ってしまう——こうした変化は、関節内で起きている構造的な問題が保存療法で補える範囲を超えつつある目安として受け取られることがあります。「薬が以前ほど頼りにならない」という実感は、遠慮せず主治医へお伝えいただきたい情報です。
指標2:夜間痛により十分な睡眠がとれず疲労が蓄積するとき
動いたときだけでなく、じっとしていても痛む。夜中に痛みで目が覚める。こうした状態は生活の質に直接響きます。睡眠が分断されれば日中の活動意欲も下がり、痛みを感じやすい状態が続きやすくなります。夜間痛の有無と回数は、診察で重視される情報のひとつです。
指標3:買い物や外出など移動できる距離が著しく狭まったとき
「近所のスーパーまで歩けたのに、今は何度も休む」「続けて歩けるのは200〜300メートルほど」といった変化は、ご自身でも把握しやすい手がかりになります。ご家族の行事や通院そのものが負担になってきた段階では、手術を含めた選択肢を並べて考える価値があります。なお人工関節は素材や設計の進歩により、耐用性に関する報告も蓄積されつつあり、その見方は以前とは変わってきました1。膝では傷んだ部分だけを置き換える部分置換型人工膝関節置換術(UKA)という方法もあり、関節の状態に応じて検討できる術式は複数あります。
主治医と具体的に話し合い治療法を選ぶためのアプローチ
手術を受けるかどうかは、画像所見だけで決まるものではありません。生活状況やご家族の支援体制も含めて考えていく話です。主治医任せにせず、材料を整えて診察に臨むと納得感が変わってきます2。
自己流のリハビリや過度なストレッチを避ける理由
「筋肉をつければ手術を回避できるはず」と考え、痛みを我慢して長時間のスクワットや深い屈伸を繰り返される方がいらっしゃいます。ただ、関節の変形の程度によっては、そうした動作が炎症や腫れを長引かせる要因になることもあります。痛みが強い時期の運動は、種類と負荷量を専門職と一緒に決めることが要点です。当院にはリハビリテーション科があり、レントゲンやエコーで関節の状態を確かめながら運動内容を調整しています。
日常生活での具体的なお困りごとをメモして診察に臨む方法
診察室では、つい「まあまあです」と答えてしまうもの。痛みで目が覚めた回数、続けて歩ける時間、階段や浴槽の出入りで困る動作、鎮痛剤を使った日数などを手帳に書き留めておくと、状態の変化がぐっと伝わりやすくなります。ご家族が気づいた歩き方の変化も、有用な手がかりです。
レントゲン画像や関節の状態をもとに確認すべき質問ポイント
「軟骨のすき間は以前と比べて変化していますか」「今の変形の程度で検討できる術式はどれですか」「保存療法を続ける場合、どの間隔で画像を確認しますか」——このあたりが具体的な質問になります。骨密度測定装置による評価も、術式や術後の生活を考える材料のひとつです1。数値や画像を一緒に見ながら説明を受けることで、待つ選択も進む選択も、ご自身の意思で選びやすくなります。
よくある質問
Q1. 保存療法の具体例を教えてください。
A. 運動療法(太ももやお尻の筋力トレーニング、可動域を保つ運動)、消炎鎮痛剤や外用薬による薬物療法、関節内注射、体重管理、そして低周波治療器・超音波治療器・牽引・ウォーターベッドなどの物理療法が中心です。関節の状態や痛みの程度に応じて、組み合わせを検討していきます。
Q2. 膝の保存療法はどのくらいの期間続けるものですか。
A. 一律の期間は定められていません。数か月続けても痛みや歩行の状況に変化が乏しい場合、あるいは生活への支障が増している場合は、方針を見直す話し合いのタイミングと考えられます。定期的に画像や歩行状態を確認しながら判断していきます。
Q3. BHP(人工骨頭置換術)とTHA(人工股関節全置換術)の違いは何ですか。
A. 人工骨頭置換術は大腿骨側の骨頭のみを置き換える方法で、主に大腿骨頸部骨折などで検討されます。人工股関節全置換術は骨頭側と骨盤の受け皿側の両方を置き換える方法で、変形性股関節症などで選択肢になります。適応は年齢や骨の状態によって異なります。
Q4. 手術を待っている間にできることはありますか。
A. 指導を受けた範囲での筋力維持、体重管理、痛みの記録づけなどが挙げられます。自己流で負荷の高い運動を行うと関節に負担がかかる場合があるため、内容は診察時にご相談ください。
Q5. 人工関節の手術後、通院はどのくらいの頻度になりますか。
A. 術後しばらくは短い間隔で確認し、状態が落ち着いた後は半年〜1年ごとの定期検診へ移る流れが多いとされています。実際の間隔は術式や関節の状態で異なりますので、手術を受けた施設の方針に従ってください。
参考文献
1. 日本外科学会. https://www.jssoc.or.jp/
2. 公益社団法人 日本整形外科学会. https://www.joa.or.jp/

医師
えさき整形外科リウマチ科
院長
向藤原 由花
名古屋市立大学医学部卒業名古屋市立大学整形外科入局
名古屋市立東市民病院(現東部医療センター)整形外科
名鉄病院整形外科
春日井市民病院整形外科勤務
1995年
名古屋市立大学整形外科
1999年
JA愛知厚生連海南病院整形外科
リウマチ関節外科部長兼リハビリテーション科代表部長
2017年
医療法人紫雪会江崎整形外科院長
日本整形外科学会専門医
日本リウマチ学会専門医
医学博士
【所属学会】
日本整形外科学会
日本リウマチ学会
JOSKAS(日本関節鏡・膝・スポーツ学会)
日本人工関節学会
日本股関節学会
骨折治療学会
中部整形外科災害外科学会
日本運動器学会
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